このページでは、切迫妊婦のご主人へのメッセージをつづります。

このサイトでは、切迫流産・切迫早産と診断された「切迫妊婦」のご主人を、「騎士」と表現しております。

夫とは、切迫流産・切迫早産で戦う主人公に、カギを与えて冒険に送り出すだけの「王様」ではありません。主人公とともに冒険に繰り出し、常にそばに寄り添い守り、共に戦い抜く。主人公にとっては、ラスボスを倒しクリアを目指すために不可欠な、唯一無二の戦友。それが「騎士」です。

しかし、妻と「共に戦い抜く」と言われても、どうしてよいのかピンとこないかもしれません。

切迫流産・切迫早産のみならず、妊娠中や出産時に身体的苦痛をともなうのは妻である「主人公」のみ。妻と共に戦いたい気持ちがあろうと、悪阻の苦しみ、いつ流産・早産に至るか分からない恐怖、安静生活での点滴の痛みや無力感、そして出産時の痛みを肩代わりするのは不可能です。

そこで私から伝えたいことは、「騎士には、騎士の戦い方がある!」ということです。

男女の脳の違いを理解しよう

ここで重要なたとえ話をしましょう。

今から約20年後。妻のお腹で今すくすくと育っているお子さんは、大学生となっています。

ある日、あなたは妻と些細なことで口喧嘩になりました。喧嘩のきっかけは、妻に頼まれた買い物をうっかり忘れてしまったとか、妻が楽しみにとっていたお菓子を知らずに食べてしまったとか、本当に些細なことでした。

しかし、残念ながら妻は諸々の事情が重なり、今日はあまり機嫌がよくなかったようです。言い合っているうちに、喧嘩はヒートアップしてしまいました。

そこで、妻はこう言い放ったのです。
「私の妊娠中、それも切迫早産であの子を無事産めるかどうかも分からないときに、飲みに行ったでしょう!!」

えっ!!

あなたは記憶を掘り起こそうとします。というか、妻が切迫早産で入院していたことすら、すでに忘れかけていました。

「30週のときよ!まだあの子の肺もできていない、もし早産になったら呼吸器に障害が出る恐れが、なんて私が主治医に言われていたときに、あなたは同僚と飲んでいたのよ!」

あなたは焦ります。全く記憶にないのです。でも妻の方は、まるで昨日の出来事かのように、次々とその日の状況を口にします。

「私、何度も何度も不安だってこと話そうとしたよね!それなのに、どうして私と肺もできていないあの子をおいて飲みに行けるわけ?信じられない!」

やっと、その当時のことをおぼろげに思い出しました。30週だったどうかは定かではありませんが、確かに「同僚と飲みに行きたいんだけど。」と入院中の妻にことわったことがあったかもしれません。

そう、許可を得たのです。さすがに、黙って面会に行かずに飲みに行くことはしなかったはず。確かに、妻の許可を得たからこそ、飲みに行ったはずです。

あなたは反論しました。「でも、確かあのときは、きちんと君にことわったじゃないか。飲みに行くなと言われたら、行かなかったよ。」

しかし、妻の怒りは一向に収まらないばかりか、こう言うではありませんか。
「当たり前でしょ!自分が入院しているからって、飲みに行くなと言えるわけないでしょう!あなたは私がどんなに気を遣った結果、そう返事ができたか、全く分かってない!切迫早産ってだけで不安で悩んでいるときに、あなたはさらなる悩みを持ちこんでくれたのよ!どうして、私が許可したからって、本当に飲みに行けるのか理解できない!!」

お子さんは妻の安静の甲斐あって正期産で問題なく産まれ、しばらくの間は夜泣きに悩まされたものの、特にトラブルもなく順調に成長し、小学生、中学生、高校受験に合格し高校生、そして希望の私立大学に進学。もうしばらくお金はかかるけれど、本人もバイトをしながら学業に精を出しています。先日の成人式は感慨深いものでした。

それなのに、何故いまさら、妻はこんな大昔の話を、それも昨日の出来事かのように詳細に訴えてくるのか??

これこそ、男女の脳の違いに他ならないのです。

男性は、事実をそのまま判断します。この場合なら、妻に「飲みに行ってもいいか」と許可を求め、妻からは「行っていいわよ。」と許可が下りた。だから飲みに行った。それにて、その日の出来事として終了です。

それに、もし仮に自分が安静中の妻に遠慮して飲みに行かなかったとしても、それで妻の切迫早産が治るわけでもありません。結局子どもは無事に産まれて何事もなく育っているわけですし。

事実は事実、なのです。自分は何も間違ったことはしなかった、と確信することでしょう。

対して、女性は、夫の自分に対する気持ちをいつも温度計ではかっています。この場合なら、妻の理想の「温度」とは、切迫早産で入院する自分のことを最優先し、仕事が終われば真っ先に病院に駆けつける夫、といったところでしょうか。

だがしかし、夫は自分の元へ駆けつけることよりも、同僚との付き合いを優先した。つまり、この日に限っては自分は「二番手」となってしまったのです。あまりにも有名な「仕事とワタシ、どっちが大事なの!?」という不可解な問いを思い浮かべてください。

でもまあ、たった一日のこと。ここは良い妻であれば、同僚との付き合いをないがしろにして自分の元へ来い、一日たりとも欠かさず面会しろ、などと言えるはずがない。だから、「何も伝えなくても夫に分かってほしい。自分が実はどんな気持ちで、本音とは裏腹のことを伝えたのかを。」そう期待することで、なんとか温度計の値を保とうとしていました。

ところがです。寛大な気持ちで同僚と飲みに行くことを許した一週間後の結婚記念日。

あなたは面会に手ぶらで現れていました。妻に「今日は結婚記念日だよね。」と指摘されて初めて、「ああ。でも、こんな状況じゃ何もできないな。」とだけ答えていました。

ここで、妻の温度計は、ピシピシと割れて水銀がこぼれ落ちました。

さらにさらに、出産後、妻が産後のダメージと安静生活で衰えた筋力とで必死に授乳しているときに、あなたの母親が「お宮参りはいつなの!?ちゃんと予約をしたの!?着物はどうするの!?いくら包んでいけばいいか確認してくれたの!?」と妻を問い詰めていました。あなたはといえば、「孫ができて、おふくろも嬉しいんだなあ。」と、ボンヤリその光景を眺めていただけ。

他にも、たくさん、たくさん、芋づる式に夫への不満が思い起こされています。そう、決して「30週のときに妻の許可が出たからと飲みに行った」だけが妻のキレた原因ではなかったのです。

こうなると、もう手がつけられない。中には、「いや、それでも俺は悪くない!」と反論したくなるようなことまで、妻の叫びに含まれている。雪だるまです。もう「30週のときに妻の許可が出たからと飲みに行った」これは単なる雪だるまの中心核と化しています。

あなたは、「30週のときに妻の許可が出たからと飲みに行った」とその他の話がどう関連しているのかすらも、理解できずに唖然とするだけでしょう。

これもまた、男と女の脳の違いによります。

男は右脳と左脳が独立しており、過去現在未来の話題を一度に引っ張りだしてドッキング、ということはしません。しかし女は右脳と左脳がよく行き来しており、「30週のときに妻の許可が出たからと飲みに行った」から、「本当は分かってほしいのに夫は分かってくれない!」という不満を、あたかもすべてが昨日の出来事かのように、芋づる式に噴き出すことができるのです。

男の認識と女の認識は、異星人ほどに違いがあるのです。まずはそこを認めましょう。

ここはダンジョン「切迫流産・切迫早産クライシス」

IMG_1025


このように、あなたからすれば異星人の脳ミソを持つ妻ですが、さらに今は日常生活とはケタの違う難易度のダンジョンにいると思ってください。

妻は、妊娠中、出産時、そして育児中、夫が身体的負担を肩代わりできないまま、自分だけが苦痛と不自由を強いられている時期に、夫からされた仕打ちは、「生涯忘れません」

「仕打ち」といっても、刑事事件に発展するような暴言とは限りません。夫からすれば、「なんだ、そんなことで」という些細な言動が、妻の生涯の地雷を踏んでしまう・・・・そんな恐ろしい事態と、夫は決して短くない期間に渡って、戦わねばならないのです。

出産を期に、夫婦仲に悪影響が・・・・いわゆる「産後クライシス」です。原因は産後のホルモンバランスの乱れなども指摘されていますが、大きな原因の一つは、男女の脳の構造の違いをお互いに理解していない状況で、妊娠・出産をする女性側にのみ著しく負担がかかる状態を迎えるからこそ、起こりえる現象ではないでしょうか。

さらに具合の悪いことに、妻が切迫流産・切迫早産となった場合、通常の妊娠期の戦いよりもさらにダンジョンの攻略レベルが上がると思ってください。いわゆる「ハードモード」です。

切迫流産・切迫早産ほど、男女の違いが顕著にでる妊娠生活はありません。妻は一層自由を奪われ、無症状であるにも関わらず寝そべるしかできないのですから。だからこそ、騎士はより一層気をつけて戦いに挑まねばならないのです。

上項で挙げた言い争いの例も、妻が健常で自由に生活している状態ならば、一日くらい妻を二番手として同僚と飲みに行ったところで、地雷とは化さなかったことでしょう。しかし、ダンジョン「切迫クライシス」の中だったからこそ、致命的な地雷となりえたわけです。

ですが私は、妻が切迫流産・切迫早産となったこの状況こそ、騎士の戦い方一つで大きなチャンスに変えることができるのでは、と考えています。

それは、あなたがダンジョン「切迫クライシス」で戦うことで、産後クライシスを防ぐ騎士の最強の必殺技を身につける可能性があるからです。

騎士の最強の必殺技とは、「妻の話を妻が満足するまで聞く」こと


「騎士の戦い方」とは、「妻の話を妻が満足するまで聞く」ことです。

えっ、そんなこと?と思ったあなた。
この必殺技を習得するには、男性にとっては針のムシロで転がりまわるほどの修行が必要です。

大抵の男性は、おそらく30分ともたないと思います。私の夫も、子どもを寝かしつけた後に私のとめどもない話が始まると、大体30分程度で意味もなく立ち上がってフラフラし始めたり、いつの間にか好きな野球チームの情報を見始めたりしていました。

ですが、私の方は、まだまだ話し足りません。内容は薄く、ときには同じ内容のことを繰り返しているだけ、というときすらあります。でも、夫相手にベラベラと思っていることを口にし、夫がその話の腰を折らずに、正論で返さずに、ひたすら「うん、うん、不安だね。そうだね。俺もそう思うよ。大丈夫だよ。」と聞いてくれるだけで、見る間に心が満たされていくのが分かります。

上項で挙げた「30週のときに妻の許可が出たからと飲みに行った」にしても、騎士がこの必殺技を会得していれば、あるいは会得しようという努力を見せていれば、「切迫クライシス」の中にあろうと決して地雷とはならなかった。わが子が20歳にもなってから掘り起こされることもなかったのです。

すなわち、飲みに行った同僚以上に妻の話を聞いてやる時間をもうけ、妻の不安、恐怖、を受け止めていれば、妻の方から「本当は快く飲みに送り出せない自分を恥じていた」といった話すら、妻の口から早々に語られていたかもしれないのです。

その後の、入院中の結婚記念日も、あなたの母親の件もそう。とにかくあなたが妻の話を満足させるまで聞き尽くし、そこから妻の求める対応の仕方を見つけ、妻を安心させていれば、よき思い出と変わっていたはずです。

「切迫クライシス」の戦いの成果は、10年後、20年後、そして老後に渡る家庭生活に影響を及ぼすと考えましょう。あなたがこの機会を逃さず、努力して騎士の必殺技を会得すれば、あなたは愛情に満ちた家庭という盤石の幸福を手にすることができます。

「無償の愛」という究極奥義にむけて

決して脅しているわけではありません。必要以上に恐れる必要もありません。
妻は、騎士のこの戦いがハードモードであることは、よく知っています。そして、騎士が勇敢にこの戦いに挑む姿に、必ずや、深く感謝します。

もしかしたら、妻は目の前の不安と恐怖に押し潰され、そしてお腹の中のわが子を気遣うばかり、騎士に感謝し労うことを忘れることもあるかもしれません。ただ寝そべってあれこれと騎士に指示した挙句、「ありがとう。」とも言われない。そんな状況に、不満を感じる場面もあるかもしれません。

でもこのことは忘れないでください。今、ただ寝ているだけに見える妻は、「究極の無償の愛」を、あなたとの子どもに与えているのです。

私が思うに、「究極の無償の愛」とは、今まさにお腹に子どものいる女性のみが、与えうるものではないでしょうか。これはすべての人類が与えられてきた愛です。もちろん、あなた自身も例外ではありません。

あなたの愛は、妻の「究極の無償の愛」には及びません。でも、その愛に近づくことはできるはずです。何の見返りも求めず、妻とわが子に与える愛です。

あなたの愛に対する感謝とねぎらいとは、時間はかかるかもしれませんが、必ずや、妻子からあなたの元に届きます。まだ見ぬわが子も、自分が危険にさらされているときに、騎士の役割を全うしてくれた父親に、やがて尊敬の念を抱くはずです。

あなたは決して孤独な戦いを強いられているわけではありません。妻がいます。まだ見ぬわが子がいます。みな、騎士であるあなたを頼り、必要としています。みな、あなたの仲間、味方です。

あなたが誇り高き騎士として妻と共に戦い抜き、この冒険をクリアしたときに、愛情に満ちた幸せな家庭を築いていることを祈ります。